50年前、日本で一般的だったパスタといえば、スパゲッティとマカロニぐらいのものでした。今では知らない人がいないほど普及しているラザーニャ、ペンネ、ラビオリ等々のさまざまなパスタはまだ市民権を得ているとは言い難く、それどころか「パスタ」という言葉自体が一般的な日本人にとっては聞き覚えのないものでした。ジェノベーゼやペペロンチーノどころか、ミートやクリーム等々の基本的なソースでさえ、スパゲッティとのコンビネーションが普及していなかった時代です。多くの日本人は、日本人自身が考案した「ナポリタン」をイタリア本場のスパゲッティだと信じ、イタリア本国には存在しないナポリタンスパゲッティをもって「イタリア料理」を満喫していたわけです。日本において、そのような「パスタ不遇時代」が展開されていた頃、パスタ抜きでは食文化を語れない「パスタ先進国」であるイタリアでは何が起きていたかというと、厳正なパスタ法の制定・施行という先覚的な出来事がありました。このパスタ法は、イタリア国内で生産されるパスタはすべてデュラムセモリナ種の小麦を100パーセント使用しなければならないという厳格な食文化制限法として知られています。パンの製造用のやわらかい小麦とは異なってデュラム種の小麦は硬質です。デュラムセモリナは、そのデュラム種小麦を粗挽きにして胚乳の中心部だけを残したもので、最高級品種にふさわしい弾力に富んだ食感が特長です。金に飽かせて世界の「本物」を手に入れようと日本人が躍起になっていた飽食のバブル期において、はじめて日本におけるパスタ不遇時代が終焉を告げたというのは皮肉な話です。しかしながら、いったん本物の味に出会ってしまった以上、たとえバブルが崩壊しようとも、イタリア直輸入パスタの歯応えを度外視するのは至難の業です。輸入物の安全性が俎上に上げられる昨今の日本において、パスタに関してはむしろイタリアからの輸入品の方が安全高品質だといえるでしょう。イタリア直輸入パスタを使ったレストランで満腹になるまで食べたとしても、数千円の出費ほどで済みます。ほんのちょっとのぜいたくを楽しんでみるのも悪くはありません。